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連鎖する依頼_4

 俺はリビングに足を踏み入れた。おじさんとおばさんの鼻に手をあてる。息が手にかからない。もう、死んでいるのかもしれない。リビングを歩き回る。懐かしい場所が血まみれになっている。ところどころ、獣の爪の跡のようなものが見える。しかも、でかい。なんの動物なのかはわからない。他は、犯人の手掛かりになるようなものは見つからない。そもそも、素人が手掛かりを見つけられるとは思っていない。
「ねえ、もうやめない?」
「もうちょっと待ってて。知りたいことがあるんだ」
 冷静になった理由はもう一つあった。この光景は知らない。でも、この事実は知っていた。お世話になった人たちが死んでいる。少しは悲しみもあるけど、あまり動揺はなかった。
「死体があるのに気持ち悪くないの」
「ここ、友達の家なんだ。友達は4年位前に失踪して、今年の春に突然帰ってきた。お兄さんも一緒にいなくなって、お兄さんは帰ってこなかった。親は二人とも殺されてた。でも、その時の記憶がないらしくて。まだ事件は解決してない」
「やっぱり、ここは過去なの」
「俺はそう思ってる」
「だったら帰ろうよ。そんなに危険を冒してまで知りたいことなの」
「たぶん大丈夫。もう、二人とも失踪した後だよ、時間的に」
「そんなのわかんないじゃん」
「時間が巻き戻ったって言ったでしょ。その巻き戻る前にお兄さんに会ったんだ。誘拐されてたみたいだった。だから話しかけてみたんだ。そしたら時間が巻き戻った」
 少しうろうろしていると、玄関のドアが開く音がした。振り返る。女の子は息を止めた。ドアが開くと、レイを連れ去った男たちが入ってきた。一人は女の子の腕をつかんだ。女の子は腕を振って抵抗している。俺はその男に向かって歩き出した。女の子をつかむ男に手を伸ばそうとしたとき、顔に重い衝撃がきて、仰向けに倒れていた。もう一人の男が俺を見下ろす。
「君たち、誰」
「そういうあんたらこそ誰だよ。レイをどこに連れ去った」
 男は舌打ちした。
「見られてないと思ったんだけどな。後で殺すとして……」男は懐から拳銃を取り出した。「質問の答えは」
 墓穴を掘った。俺に向けられた銃口から目を逸らす。口の中がいつの間にかカラカラだった。
「俺の質問に答えたら教えてやる」
「自分が不利なこと、わかってないみたいだな。君たちに教えることはない。聞かれたことだけに答えろ」
 俺は口をつぐんだ。すると、男は安全措置を外した。男の指が動く。その指が、引き金を引いた。

 

 

連鎖する依頼_3

 曖昧に頷くと、女の子は顔をほころばせた。

「よかった」

 俺の手を取る。顔が少し熱くなる。

「全然知らないところに連れてこられて困ってたんだ」

「知らないところなの?」

「ここがどこだか知ってるの?」

「ここ、俺の家の近くだよ」

「ならちょっとだけ寄っていっていい? 落ち着けるとこにいたいんだけど」

 大胆な物言いに、少し口ごもる。でも、ちょっとドキドキもする。

「ダメ。時間が巻き戻るから」

 女の子は怪訝な顔をした。

「巻き戻るって……もう巻き戻ってるよね」

「でも、さらに巻き戻っちゃうんだ。俺の親に会ったら巻き戻ったし、知り合いには話しかけても巻き戻ったとにかく、話しかけるのはよくない」

「よくわかんないよ」女の子は首を横に振った。「とにかく、確かめに行こう」

 ここで話をするよりも、一回見せるほうが早い。家に向かって歩き出した。家の前まで案内する。試してみるように促した。俺は離れたところから見ることにした。女の子は困惑した顔をしながらも俺の家のインターホンを押す。親が出てきて女の子としゃべり始めた。でも、時間は巻き戻らない。少し話してから、俺のところに戻ってきた。

「巻き戻らないけど」

 女の子の声は少し冷たい。

「なんでだろう。そこの家も試してみて」

 俺はサチの家を指さした。そこで、レイが連れ去られたことを唐突に思い出した。

「レイがいるかどうか確かめて」

 つい、口調が荒くなる。

「誰? レイって…」

 女の子が自分の体を抱くようにした。

「いいから、早く」

 強い口調で促すと、女の子はしぶしぶといった様子でサチの家のインターホンを押した。俺はまた、遠くから見ていることにした。でも、女の子がしゃべる様子がない。しばらく同じ姿勢のままでいた後、俺のほうに近づいてきた。

「誰もいないけど」

 女の子がそう言うと、俺はサチの家に向かって歩き出した。

「ねえ、そこ、あなたの家じゃないんでしょ?」

 そう言いながらも、女の子は俺についてくる。玄関を開けて家に入ると、懐かしいにおいがした。しばらくサチの家には来ていない。すぐ目の前には廊下があって、奥のドアを開けるとリビングがある。リビングのドアを開けると、俺は口を手で押さえた。後ろから軽い足音が近づいてくる。そして、小さな悲鳴が上がる。どさっという音がした。女の子の震える息。それが不思議と、俺を落ち着かせた。

 俺がリビングで見たものは、血まみれで倒れているサチのお父さんとお母さんだった。

 

 

 

連鎖する依頼_2

 やっぱり、勘違いではなかった。おばさんはフィーチャーフォンをいじりながら歩いていて、前を見ていない。やっぱり、おばさんのことをつい見てしまう。目をそらして、反対側を見ると、さっきの女の子がこっちに歩いてくるのが見えた。その子も、フィーチャーフォンを持っている。一度にいろんなことがありすぎて、頭が混乱してきた。

 その女の子に近づく。「ねえ」と話しかけると、女の子は肩をびくっとさせて俺を見た。立ち止まる。怪訝な顔をしている。

「さっき会ったよね」

 女の子は黙って歩き出した。もう、俺のことは頭から消えているみたいだった。携帯をいじっている。我に返ってみると、自分の行動がただのナンパにしか思えなくて恥ずかしくなる。今頃、きもい男にナンパされた、とでもSNSに書いているのかもしれない。

 胸の痛みを引きずりながら、サチの家に向かって歩き出した。さっきのことが気になる。あの男たちはもう、家に入っているのだろうか。うまくいけば、サチの笑顔を増やせるかもしれない。門の横に備え付けられているインターホンを押した。「はい」とレイの声が返ってくる。名乗った。次の瞬間、世界は一変していた。

 右側に顔を向ける。フィーチャーフォンをいじるおばさんが歩いてくる。左側に目を向ける。少しして、ミニスカートの女の子が歩いてきた。時間が巻き戻っている。二回とも、レイに話しかけたところで時間が巻き戻った。レイに話しかけると、進まないみたいだ。気を付けよう。でも、どうすればいい。なにも進んでいないだけじゃなくて、ほとんどなにもわかっていない。

 家に向かって歩き出した。自分の家で情報を集めよう。門を開けて、玄関を開ける。そこには、お母さんがいた。次の瞬間、世界は一変していた。

 また、家の前に戻っている。今度はレイに話しかけていない。それなのに、時間が巻き戻った。時間が巻き戻る条件は、レイに話しかけることじゃないみたいだ。それを含んだなにかか。それとも、それは見当外れなのか。

 レイには話しかけない。家にも入らない。家に入ることができれば、少しは情報収集ができそうなのに。なす術がなくて、歩き出した。ミニスカートの女の子とすれ違う。フィーチャーフォンをいじっていて、俺のほうには見向きもしない。やっぱり、俺が話しかけたことは無かったことになっているみたいだ。

 大通りに出る。スマホをいじっている人を見かけた。なんだか安心して、見てしまう。向こうも俺に気づいた。その女の子は目を見開いている。俺のほうに近づいてくる。

「あなたも光に連れてこられたの?」

 

 

 

連鎖する依頼_1

「あなたってとっても流行に敏感なのね」

 とっても冷たい声が返ってきた。サチは机の上にあるペンや教科書をカバンの中にしまっている。目を合わせようとはしてくれない。

「で、その宇宙人がなにしたの」

「お、興味持った」

 にやにやしながら言った。サチは一瞥もしないでカバンを手に持ち、歩き出した。俺も後に続く。教室から出たところで追いついた。でも、横には並ばずにそのまま後ろをついていく。サチが歩くたびに形のいい尻が揺れる。見とれていると、尻の動きが止まった。顔を上げる。

「ごめんね」

 サチの言葉は、心にすとんと落ちてきた。「えっ」と言おうとしたとき、目の前に人の形をした光が現れた。サチは前を向いていて、その光に気づいていない。光が強くなって、俺を飲み込んだ。光が消えると、視界が一転した。

 そこは俺のよく知っている場所だった。俺の家の目の前だ。辺りを見まわす。俺がなんでここにいるのかわからない。さっきまでサチと一緒にいたのに。

 とりあえず家に入ろう。そう思って歩き出そうとすると、おばさんがこっちに向かって歩いてくるのが見えた。携帯をいじりながら歩いていて、前を見ていない。フィーチャーフォンが珍しくて、つい見てしまう。少なくとも、友達で使っている人はいない。でも、電車でおじさんが使っているのをたまに見る。視線に気づかれないようにおばさんから目をそらす。

 俺の家の玄関に目を向けると、視界の隅に黒い服が映った。そちらを見ると、学生がいた。ルーズソックスを穿いたミニスカートの女の子。その手に持っているのは、フィーチャーフォンだった。おばさんよりも珍しくて、二度見してしまう。でも、気づかれないように無理やり目をそらした。こういう子に見ていることを気づかれると、面倒くさい。

 ふと思うことがあって、歩き出した。おばさんの後を追う形になる。少し歩いていると、またフィーチャーフォンを持っている人を見かけた。大通りに出ると、フィーチャーフォンを持っている人ばかりだった。スラックスのポケットからスマホを取り出してみる。スマホにちらちらと視線が集まるのがわかった。その視線を無視しながら、スマホを操作する。スマホに電波は入っていなかった。よくわからない。スマホをポケットにしまう。

 とにかく、家に戻ることにした。パソコンで調べればわからないことも解決できるかもしれない。家の前に着くと、左隣の家の玄関が開いた。男が三人。二人が一人の男を間に挟んで体を支えながら歩いている。真ん中の男は目隠しをされている。しかも、真ん中の男は俺のよく知っている男だった。サチのお兄さんだった。

「レイ?」

 話しかけた瞬間、世界が一変した。そう思ったけど、そうでもなかった。気づかないうちに俺の家の玄関を見ていただけだ。左隣の家の玄関はしまっていて、さっきの男たちはいない。目を俺の家の玄関に戻そうとしたとき、視界の隅に見覚えのあるシルエットが映った。目を向ける。

 そのシルエットは、フィーチャーフォンを持っているおばさんだった。