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連鎖する依頼_10

「おい」と聞こえたとき、びくっと体がはねた。油断していた。振り返ると、チョーカーをした男が立っていた。
「どこに行くんだ。こんなにめちゃくちゃにしといて」
 その問いかけには答えなかった。答える理由もなかった。
「答えないなら殺す。答えても殺す」
 俺はなにも言わないで後ずさった。
「逃がすと思うか」
 男が俺に向かって手をかざした。その手から光が伸びてくる。でも、その光は球体に飲み込まれて消えた。男は少し固まったあと、片頬を釣り上げた。「ほう、面白い」
 俺はそのまま後ずさる。もう一度、その手から光が伸びてきた。光が球体に接触したとき、球体が壊れた。反応が遅れる。気づいたときには、腹が熱くなっていた。思い出したように、背中の痛みも襲ってくる。光が消えると、くずおれた。情けない声が漏れる。
 男が近づいてきた。必死に壁をイメージする。薄くて黒い半透明の壁ができた。男と俺を隔てる壁はあまりにも頼りなくて、諦めそうになる。
「応用の利くいい技を持ってるみたいだな。面白そうだ。今回は見逃してやる。傷を癒して本気で戦いに来い」
 そう言って、男は俺に背中を向けた。俺は少しの間。何もしなかった。というより、何もできなかった。光は俺の体を貫通していなくて、少しそのままにしていると楽になってきた気がした。
 体を起こした。腹も背中も痛む。重い足を引きずって歩いた。体が何倍にも重くなった気がする 。
 そこは塀の内側だった。塀に沿って歩く。歩いていると、門が見えた。警備員が1人立っている。今の状態で倒せるとは思えない。でも、まだ気づかれていない。
 隠れる場所はなかった。50メートルくらい離れたところで立ち止まる。様子をうかがった。警備員はあくびをしている。腹と背中が痛くなってきた。それに、口の中がからからだ。それでも、どうしていいのかはわからない。
 警備員が振り返った。目があって、顔が引き締まる。俺のほうに近づいてきた。俺も近づいていく。警備員がこぶしを振りかざす。まだ、俺たちの距離は10メートルくらいはある。球体をイメージした。球体は小さい。警備員の顔くらいの大きさしかなかった。警備員がこぶしを突き出すと、光弾が襲ってくる。球体が光弾を吸収して、近づいてきたこぶしを削った。叫び声が上がる。警備員はもんどりうって倒れた。もう、警備員は俺のほうを見ていない。走った。無我夢中だった。少し走って立ち止まると腹も背中もズキズキと痛んだ。
「どうしたの」
 声がしたほうを見ると、前回過去に飛ばされたときに会った女の子がいた。
「変なところに飛ばされて…」
 届いたかわからないくらい小さい声だった。
「変なところって」
「わからない。警備員がいたから大きい施設だと思う」
「警備員」
 女の子の声が大きくなる。
「ここら辺で警備員がいるところって言ったら市役所くらいしかないよ」