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連鎖する依頼_11

「何で知ってるの」
「ここ、私の家の近くなんだ。休めるところあるからおいで」
 俺は黙って頷いた。
「私、ユウリ。自分で歩ける?」
 また、黙って頷いた。ユウリも頷いて、歩き出す。俺に合わせて歩いてくれた。5分くらい歩くと、ユウリが立ち止まった。何の変哲もない一軒家だった。門を開ける。ユウリは玄関を少しだけ開けて、中の様子をうかがった。
「やっぱり、私も巻き戻ったよ、お母さんと会ったら」
 女の子は玄関をさらに開けて中に入っていった。少し躊躇したけど、後に続いた。二回の一番手前の部屋を開けると、中に入る。ピンクの装飾が目立つ部屋だった。女の子は自分のベッドに座る。俺の目を見て、ベッドをポンポンと叩いた。俺は素直にそこに座る。少しどきどきする。
「市役所が私たちを過去に飛ばしてるってことだよね」
「でも、政府は都市伝説をなくそうとしてるんだよね」
「それも都市伝説でしょ」
 俺は口ごもった。ユウリの言うとおりだった。
「まだ情報が足りない」
「またあそこに行くの」
「行かない。あそこは危険すぎる。それに、都市伝説のことなんてどうでもいい」
「巻き込まれてるのに」
「逃げながらやり過ごしたほうがいいと思う。俺たちには大きすぎる事件だよ」
 女の子は少し白けた顔をした。
「新聞ないの。広報もあれば見たいんだけど」
「ちょっと待ってて。持ってくる」
 ユウリはそう言って部屋を出ていった。少しして、新聞と広報を五部ずつ持ってきてくれた。その中から適当に一部新聞を取って見てみる。ユウリも一部、新聞を手に取った。興味を引く記事はなかった。ただ、地域の欄に自分の家と遠い場所が書かれていて、安心した。
「なんか、懐かしいね。いろんなこと思い出すよね。知らなかったこともいっぱいあるし」
 去年のことなのに、わからないことが多かった。それに、ずっと前だと思っていたことが去年のことで、驚くこともある。
「ああ、これね。こんな事件もあったね」
 俺がユウリを見ると、ユウリも俺のほうを見た。
「誘拐事件。かわいそうだよね。でも、見つかってよかった」
「どれ」そう聞くと、ユウリは新聞を俺に差し出した。受け取ろうとした瞬間、ユウリがいなくなった。床に落ちた新聞には、『誘拐された女子高校生、見つかる』と書かれていた。俺の心臓はバクバクと鳴っていた。読み進めてみると、やっぱり俺の予想は当たっていた。それはサチの事件だった。
 さらに読み進めていく。俺は目を見張った。サチを保護したのは、今俺がいる地域の市役所職員だった。

 

 

連鎖する依頼_10

「おい」と聞こえたとき、びくっと体がはねた。油断していた。振り返ると、チョーカーをした男が立っていた。
「どこに行くんだ。こんなにめちゃくちゃにしといて」
 その問いかけには答えなかった。答える理由もなかった。
「答えないなら殺す。答えても殺す」
 俺はなにも言わないで後ずさった。
「逃がすと思うか」
 男が俺に向かって手をかざした。その手から光が伸びてくる。でも、その光は球体に飲み込まれて消えた。男は少し固まったあと、片頬を釣り上げた。「ほう、面白い」
 俺はそのまま後ずさる。もう一度、その手から光が伸びてきた。光が球体に接触したとき、球体が壊れた。反応が遅れる。気づいたときには、腹が熱くなっていた。思い出したように、背中の痛みも襲ってくる。光が消えると、くずおれた。情けない声が漏れる。
 男が近づいてきた。必死に壁をイメージする。薄くて黒い半透明の壁ができた。男と俺を隔てる壁はあまりにも頼りなくて、諦めそうになる。
「応用の利くいい技を持ってるみたいだな。面白そうだ。今回は見逃してやる。傷を癒して本気で戦いに来い」
 そう言って、男は俺に背中を向けた。俺は少しの間。何もしなかった。というより、何もできなかった。光は俺の体を貫通していなくて、少しそのままにしていると楽になってきた気がした。
 体を起こした。腹も背中も痛む。重い足を引きずって歩いた。体が何倍にも重くなった気がする 。
 そこは塀の内側だった。塀に沿って歩く。歩いていると、門が見えた。警備員が1人立っている。今の状態で倒せるとは思えない。でも、まだ気づかれていない。
 隠れる場所はなかった。50メートルくらい離れたところで立ち止まる。様子をうかがった。警備員はあくびをしている。腹と背中が痛くなってきた。それに、口の中がからからだ。それでも、どうしていいのかはわからない。
 警備員が振り返った。目があって、顔が引き締まる。俺のほうに近づいてきた。俺も近づいていく。警備員がこぶしを振りかざす。まだ、俺たちの距離は10メートルくらいはある。球体をイメージした。球体は小さい。警備員の顔くらいの大きさしかなかった。警備員がこぶしを突き出すと、光弾が襲ってくる。球体が光弾を吸収して、近づいてきたこぶしを削った。叫び声が上がる。警備員はもんどりうって倒れた。もう、警備員は俺のほうを見ていない。走った。無我夢中だった。少し走って立ち止まると腹も背中もズキズキと痛んだ。
「どうしたの」
 声がしたほうを見ると、前回過去に飛ばされたときに会った女の子がいた。
「変なところに飛ばされて…」
 届いたかわからないくらい小さい声だった。
「変なところって」
「わからない。警備員がいたから大きい施設だと思う」
「警備員」
 女の子の声が大きくなる。
「ここら辺で警備員がいるところって言ったら市役所くらいしかないよ」

連鎖する依頼_9

 首に噛みつかれる瞬間、目をつむった。何秒か待っても痛みが来なかった。目を開けた。目の前に黒い球体があった。俺の背丈くらいある。獣使いが目を見開いていた。
「なんなんだね、それは」
 俺は答えなかった。答えられなかった。そもそも、俺が出したものなのかわからない。頭が真っ白になる。横にずれた。でも、球体は一緒に移動してくる。元の位置に戻る。球体も、元の位置に戻った。やっぱり、これは俺が出した球体らしい。
「コントロールできてないのだな」
 獣使いは不敵に笑った。獣が現れる。5頭。一斉に襲ってきた。でも、獣たちは球体に吸い込まれて消えた。男は舌打ちした。また、獣が現れる。今度は、いろんな方向から襲ってきた。でも、球体は逐一それに反応して、俺に噛みつく前に獣を飲み込む。ヨーヨーみたいだ、と場違いなことを思った。
「コントロールできてないくせにいい技を持ってるじゃないかね」
 そう言って、男は俺に背中を向けた。
「どこに行く」
「命が助かったと思うんだね」
 そう言って、男は歩き出した。サイレンはまだ鳴っている。とりあえず、部屋の中を歩き出した。球体は消えない。特に何もない部屋だった。丸テーブルとイスがあるだけだ。カレンダーに近づく。やっぱり、1年前の日付だった。これで、つい最近になって獣使いが襲ってきた理由がわかった。前回過去に来たときには、俺たちは会っていなかった。今、ここで会ってしまい、1年後に探り当てられる。もう一人の男がいなかったのは、俺が殺したからだった。
 さらにカレンダーに近づくと、壁が消えた。球体が勢いよく俺のほうに向かってくる。俺は反射的に避けた。球体に触れた部分が消滅している。さっきの動きは、俺がイメージした動きだった。残っている壁を消すように、いろんな方向に動かすイメージ。すると、球体はその通りに動いた。少しうれしくなる。
 球体を後ろに連れてそのまま進んだ。その先には、資料が放置されている部屋があった。試しに一枚、手に取ってみた。意味の分からない単語が書いてあった。内容が理解できなくて、すぐに手放す。
もう一枚手に取ってみた。「漆黒の扉を開くもの、世界を破壊する力を手に入れる」と書いてあった。やっぱり意味がわからない。
 ここから出ることにした。でも、その前に球体を振り回した。さっきのことを思い出しながら。資料は球体に飲み込まれて、気分が少しだけすっきりした。壁に穴を開ける。足を踏み出した。そのとき、後ろから声がした。

連鎖する依頼_8

「いつの間に」
 男が声を荒げる。
 怒りが爆発した。男の腹に突然穴が開いた。自分の荒い息が聞こえる。
 オキナの様子を見る。鼻に手をかざした。息をしていない。大量に出血していて、もう死んでいるのだろう。また、怒り。「くそっ」と叫ぶ。男の顔が消し飛んだ。首から血が流れてきて、白い床を染める。
 壁も天井も白かった。隅には二段ベッドとテレビが置かれている。簡素な部屋だった。ここがどこなのか、よくわからなかった。オキナの死体は置いて、部屋のドアを開けた。部屋と同じく、白い廊下だった。適当に歩き始める。
 自分の手を見た。汚れていない。でも、この手は汚れたんだと思った。不思議と恐怖も後悔もなかった。
 突き当りのドアの取っ手に手をかけた。開かない。諦めて引き返すことにした。少し歩くと、組織の人間らしい人に見つかってしまった。驚いた顔をして、走り去っていく。
 どうしようか迷った。追いかけるべきか、逃げるべきか。そうこうしているうちにサイレンが鳴り始めた。ガチャンと音がする。きょろきょろしていると、獣使いが現れた。
「誰だ、お前」
「覚えてないのかよ」
「そもそも会ったことないね」
「サチの家で見ただろ」
「サチ。誰だね、それは」
「お前らが連れ去った兄弟だよ」
 そのとき、獣使いの表情が変わった。しまった、と思ったけどもう遅かった。
「そうか、見てたんだな。見られてないと思ったんだがね」
 獣が現れた。壁を出す。獣がぶつかると、簡単に壊れた。
「なんだそれは。紙かね」
 獣が襲ってくる。俺は逃げ出した。でも、どのドアも開かなくて、すぐに追いつかれてしまう。奥にあるドアの取っ手をを何回も引く。ガチャガチャと音が鳴るだけで、開かない。後ろを見る。獣が飛んだ。ドアに半径1メートルくらいの穴が開いた。背中の肉がえぐられるような、鋭い痛み。後ろからの衝撃で、穴から部屋の中に倒れこむ。ジタバタと暴れた。背中に獣が噛みついている。
 獣がもう一頭、穴から部屋に入ってきた。飛びかかってくる。顔を噛まれる。そう思ったとき、獣の顔が消えた。顔のない体がぶつかってきて、倒れる。気づくと、背中に噛みついていた獣も消えていた。
「お前、何したんだね。さっきのペラペラで俺のタイガーが消えるわけない。何を隠してるんだね。いきなり現れたことと関係してるのかね」
 俺は後ずさった。壁にぶつかる。壁を見ると、去年のカレンダーが貼ってあった。
「答えないのかね。まあいい。力づくで言わせよう」
 獣が現れた。1時間は体感的にまだだ。獣が飛びかかってきた。

 

 

連鎖する依頼_7

「危なかったね。どんな力をイメージしたんだい」
「守る力が欲しかったんです。だから、防壁をイメージしました」
 紅茶を一口啜った。温かい紅茶が体に染みるようで、少し落ち着く。俺たちはオキナの家に戻ってきていた。
「防壁で木を破壊する…すごく危険な力だ。中でも特に。今日はこれで終わりだね。また今度やってみよう。今度はちゃんとイメージできるようにしようか。防壁はいい力だからね」
「都市伝説で聞いたことがあるんですけど、俺たちが過去に連れてこられるのって、世界崩壊を食い止めるためなんですか」
「確証はないけどね。世界崩壊はここらへんで計画されてるみたいだね。だから毎回、過去に飛ばされるとここら辺に来る。僕は謎を解明したくてここら辺に引っ越してきたんだ」
 世界崩壊を食い止めるなんて俺には事が大きすぎてできない。でも、レイとサチの誘拐の真相を調べられるのはいいことかもしれない。
 俺はオキナと連絡先を交換して、その家を出た。次の日も、練習をした。
 防御壁をイメージする。ふっと力を込めると、目の前に防御壁が出現した。半透明の、薄い壁だ。
「うん、ちゃんと出せるようになったみたいだね」
 そう言って、おきなは壁に人差し指を向けた。光の玉が射出される。小さな衝撃が伝わってきて、壁は粉々になった。少し胸が痛い。悔しいような、悲しいような。
「でも、強度がまだまだだね。強くイメージしないと。まあ、これはどうにでもなるけどね」
 もう一度壁を出した。おきなはまた、人差し指を壁に向ける。その時、人型の光が目の前に現れた。おきなとの間に挟まれる形になっている。おきなは目を見開く。
 光の玉が射出された瞬間、おきなは姿を消した。

「最近さ、ここら辺で事件起きたよね」
「どんな」
「何で知らないの。人が襲われた事件だよ」
 おきなが人を殺したことについて、少し気になってサチに聞いてみた。誰も騒いでいなかった。サチも知らないみたいだ。
「なんでそんなに怒ってるの」
 一瞬、口ごもった。
「なにかあったの」
「ごめん。何もない」そう言って歩き出した。階段を下りていく。
「ねえ、危ないことしてるんでしょ。やめなよ」
 サチの言葉を無視して歩き続けた。サチから姿が見えなくなったころ、人の姿をした光が目の前に現れた。とっさに、目の前に壁を出した。でも、世界は一転した。
 目に飛び込んできたのは、レイを誘拐したもう一人の男と、体中を切り刻まれて血まみれになったおきなの姿だった。

連鎖する依頼_6

「伏せろ」
 その声のほうを見ると、若い男が近づいてくるのが見えた。突然、視界の隅に獣が躍り出て、反射的に体がびくっとなる。さっき消えた獣と同じ姿だった。獣が若い男に向かって走り出す。若い男は親指を立てて、人差し指を獣に向けた。人差し指の先から高速の光の玉が出て、獣を霧散させる。
「誰だお前」
 その問いかけに、若い男は答えない。また、光の玉が射出される。今度は獣使いの胸を打ち抜いた。小さなうめき声をあげて、獣使いはその場に倒れた。死んだのか、気絶しただけなのかわからない。
「さあ、行こうか、僕の家に。ここは危険かもしれないからね」

 目の前に、紅茶の入ったマグカップが置かれる。
「あの力って…」
 若い男は俺の向かいに座った。紅茶を一口すする。
「あれは魔法っていう力だよ。すごく危険な力だよ」
「教えてください」
 若い男は顎に手を当てて黙り込んだ。
「君はいきなり変なところに連れてかれたことはあるかい?」
「変なところじゃないですけど、過去には飛ばされたことがあります」
「そこまでわかってるなら話が早い。外に行こうか。家の中じゃ物が壊れるからね」
 そう言って若い男は立ち上がった。移動するときに名前を教えてもらった。オキナというしい。移動した先は公園だった。誰もいなくて、閑散としている。
「僕たちは時の魔術師って言われてる。時間を自由に操れるわけじゃないから違う気もするけどね。魔法の素養がある人は過去に強制的に飛ばされるんだ。で、1時間で帰ってくる。呼び出される時間は決まってなくて、みんなが一斉ってわけでもないみたいだよ」
 いきなり現代に戻ってきたことを思い出した。おかげで助かったけど、ちょうど時間切れにならなければ死んでいた。少し身震いがした。
「僕の力はさっき見たよね。手から光の玉を発射できる。でもあんまり強くはないよ。応用が利かないし予備動作でばれるからね」
 そう言って、目の前の木に向かって撃った。木に穴が開く。
「まあまあ威力はあるよ。これでも結構抑えたからね。人なら簡単に殺せる。…人によって力は違う。自分のイメージで力を作り上げるんだ。イメージが強いほど上達も早いし強い力になる」
 欲しい力。考えた。サチとレイを守りたいという、漠然とした考えしかなかった。具体的にイメージできない。
「力のイメージができてきたら、あとは発動するイメージをすればいいんだ。全部、イメージだよ。最初は難しいと思うけどね。慣れてくればどうってことないよ」
 守る力。防壁。よし、それがいい。防壁をイメージする。具体的にイメージができあがった。半透明の、薄い板。どんな技も通さない。絶対的な防御壁。それを、目の前に出す。すると、目の前の気に大きな穴が開いた。
「危ない」
 オキナが叫んだ。その木は俺たちに向かって倒れてくる。オキナは木を撃った。大きな球が木にぶつかる。木は俺の肩をかすめて倒れた。

 

連鎖する依頼_5

 やばい。そう思ったとき、視界は一転していた。
 次に視界に入ってきたのは、学校の廊下だった。元の場所に戻ってきていた。でも、サチはいない。スマホを取り出す。ちゃんと使えた。教室に戻った。見知った顔が俺を一瞥する。教室のカレンダーを見ると、俺が元いた時間に戻ってきているようだった。

 乱暴に手を振り払われた。
 腕を掴んでここまで連れてきたのは、サチのほうだったのに。少し傷つく。屋上へと続くドアの目の前だった。階段の踊り場になっている。屋上には鍵がかかっていて入れない。
「どこに行ってたの」
「それよりさ、4年前のサチの家のさ、あの獣の爪の跡、なに。今もあるの」
 サチは目を見張って少し沈黙する。
「なんで知ってるの」
「過去に行ってきたから」
 サチはまた沈黙した。
「そうなんだ、行ってきたんだ、過去に」
「信じるの」
「その傷知ってるってことはそういうことでしょ。今まで教えたことないもん。それに急にいなくなって見つかったと思ったらそんなこと言い出すんだよ。信じるしかないじゃん」
「で、どうなの、あの跡」
「思い出したくない」
 そう言って、サチは俺をおいて階段を下りて行った。俺は追いかけようとはしなかった。

 気のせいじゃなかった。
 やっぱり、後ろの男は俺を尾行している。距離は一定で、隠れようとしない。目的が何なのかわからないけど、なにが起きてもいいように人通りがあるところを選んで歩いている。家に帰ることはできない。どこかの店に入ったほうがいいのかもしれない。
 俺は走り出した。すると、その男も走り出す。今度は距離を詰めてきた。走り出さなければよかったと、少し後悔する。
 男との距離が縮まってきた。追いつかれる。だんだん荒くなってくる俺の息が聞こえる。
 久しぶりに走ったせいで、少ししか走っていないのに足が痛くなってきた。振り返ろうとした瞬間、襟を引っ張られた。勢い余って、首のあたりが痛くなる。がむしゃらに暴れた。でも、男の力は強かった。
 人が一人、さらわれそうになっているのに、周りの人は助けてくれなかった。後ろ向きのまま、その男に路地裏に連れていかれた。
「さて…」人気のなくなったところで、やっと襟にかかった手が離れた。といっても、解放されたわけではない。「久しぶりだな」
 その男は、4年前にレイを連れ去った男の一人だった。
「やっと見つけた。まさか、隣の家に住んでたとは思わなかったがね。これでやっと、口封じができる」
 その男の隣に、半透明の獣が現れた。虎に似ている。その獣が前足を折って力を込めた。獣が俺に飛びかかってくる。その爪が俺の喉を切り裂こうとしたとき、獣が霧散した。